※ この記事は、KIESS MailNews 2014年10月号に掲載したものです。
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6月から9月にかけて、KIESSでは『「たのしくて、たのもしい。」てづくりミニ太陽光発電ワークショップ&アフターミーティング』というイベントを開催しました。たった10Wの、とても小さなソーラーパネルを起点とした独立型発電システムを、自分たちで手作りしてみようという企画です。今回はこのワークショップでの実例をふまえながら、どうすればてづくりミニ太陽光発電を製作することができるのか、ご紹介したいと思います。
ミニ太陽光システムの基本的な構造
ワークショップで製作したミニ太陽光発電システム
ミニ太陽光発電システムの構成図
ミニ太陽光発電システムは基本的に、
- ソーラーパネル
- バッテリー
- チャージコントローラー
- DC-ACインバーター
という四つの部品から構成されます。
ソーラーパネルは発電するもので、バッテリーはそれを蓄電するもの、というのは言うまでもなくご存知かと思いますが、残りの二つについては聞いたことがないという方も多いのではないでしょうか?
チャージコントローラーというのは、ソーラーパネルとバッテリーの“間に”接続する装置です。これがない場合、バッテリーが満タンなのに更に充電しようとしたり、夜中にバッテリーからパネルに電気が逆流してしまったりして、故障の原因となってしまいます。
DC-ACインバーターというのは、バッテリーから取り出すことができる「12ボルト(V)」で「直流」の電気を、家庭で使用されている「100ボルト」で「交流」の電気に変換する装置です。身近なところとしては、クルマのシガーソケットを使って家電製品を使えるようにする変換機も、このDC-ACインバーターの一種です(実際に今回のワークショップでも、市販のカー用品1)を使用しました)。
接続には配線コードと端子をつかって、ソーラーパネルとバッテリーはチャージコントローラーに、DC-ACインバーターは直接バッテリーに接続します。チャージコントローラーには、バッテリーの電気を直流のまま使うための出力端子もついています(この部分の活用方法については、KIESS MailNews 2014年1月号をご参照ください)。
KIESSのワークショップで組み立てたミニ太陽光発電システムには、以下のような製品を使用しました。今回はミニ太陽光発電の動作確認として、小型のLED電球もつないでみることにしました。
【基本部分】
ソーラーパネル:オータムテクノロジー社 AT-MA10A(公称最大動作電圧17.5V,公称最大動作電流0.57A)
バッテリー:LONG社(台湾) LG7-12(定格蓄電容量 12V, 7.0Ah)
チャージコントローラー:EPsolar社(中国) LS0512(システム電圧 DC12V,最大入力電流5A)
DC-ACインバーター:セルスター工業 FTU-70B(入力電圧 DC12V,最大出力70W,定格出力56W)
LED電球:パナソニック LDA4LHE17(E17口金,消費電力3.9W,全光束260lm)
【接続部分】
配線コード:エーモン 1182 ダブルコード(1.25sq)
シガーソケット:エーモン E329 線付ソケット(メス)
コード付き電球ソケット:ヤザワ SC172BK(E17口金)
端子類:ギボシ端子(オス),ギボシ端子ダブル(メス),平型端子(メス)
機材のそろえ方
一般的な住宅用太陽光発電の場合は、代理店や電気屋さんなどを通じて、機材の購入から設置工事まですべてお任せで導入できるでしょう。しかしミニ太陽光発電は、基本的に自分で組み立てるものなので、必要な機材も自分で調達しなければなりません。
そもそも、ミニ太陽光発電システムをつくるのに必要な機材はどうやって手に入れたらいいのでしょう?
数ワット~数十ワット程度の小さなソーラーパネルと、それに対応したチャージコントローラーは、秋葉原や大阪の日本橋などにある電気工作の専門店などで売られています。そこまで行くのが大変な場合でも、ネット通販などを利用すれば、安価な送料で入手することが可能です。
次にバッテリーですが、今回のワークショップでは“ディープサイクルバッテリー”という、繰り返しの充電・放電に強いバッテリーを使用しました。ディープサイクルバッテリーはキャンピングカーやヨットの室内設備、電動カートやシニアカーの動力としてよく使われているので、これらのメンテナンス用品を扱っている店(たとえばアウトドア用品店など)であれば入手可能かもしれません。もちろん、先述のパネルやチャージコントローラーを売っている店なら、大抵はバッテリーも取り扱っていると思いますので、あわせて購入するのもいいでしょう。あるいは、過度の放電にさえ気をつければ、一般的な自動車用の鉛バッテリーでも充分に使えますので、まだ使える中古の自動車用バッテリーがあればそれをリユースするのもいいでしょう。小型で高性能なリチウムイオン電池も有力な選択肢ですが、まだまだ値段が高いのでお財布との相談が必要かもしれません。
そしてDC-ACインバーターですが、これも先述のとおり、今回のワークショップでは一般的なカー用品を使用しました。今回のように小規模で“ちょっとだけ”、“チビチビと”使うことを前提としたシステムならば、どこのカー用品店やホームセンターでも売られているような数千円のインバーターでも十分だと思います。
これらの機器を接続するとき必要なコードや端子類も、大抵はカー用品売り場で見かけることができます。LED電球とソケットは、一般的な電気店で入手可能なごく普通のものです。
ミニ太陽光システムの組み立てかた
組み立ては基本的に、端子や配線コードをつかって、ソーラーパネルやバッテリーを接続する作業の繰り返しです。ワークショップでは工具の使い方や使用上の注意などのレクチャーも含め、およそ3時間半かけて組み立てましたが、慣れてくれば1時間足らずで完成させることも可能です。
配線コードは撚り線(細い銅線を何本も束ねたもの)を塩ビなどで被覆した(包みこんだ)ものを使用し、ある時はコードの先端に端子を付け、端子同士をつなぎ合わせる。またある時はコードの先端と機材を、直接ネジで固定する。このような作業を繰り返して、充電から蓄電、そして給電に至るまでの一連の電気の通り道をつくってあげます。
このときに必要なのは、コードの先端部の“被覆をむく”工程と、被覆を剥いた部分に端子を取り付けるために“かしめる”工程です。それぞれどのような作業か、写真を見てイメージしていただくとして、どちらも何回か練習してコツをつかめば、誰でもその日のうちに習得することができます。
組み立て工具には、カッターナイフやネジをしめるためのドライバーと“電工ペンチ”があれば十分です。被覆を剥く作業とかしめる作業、どちらも電工ペンチが一本あればスムーズかつ確実におこなうことが可能です。電工ペンチも、ホームセンターやカー用品店で見つけることができます。
<ミニ太陽光発電システムの組み立て作業>
電工ペンチやニッパーでコードを切断する
端子付けが不要な部分はネジなどで固定する
電工ペンチをつかい、コードの被覆をむき取る
被覆をむいた部分に端子を取り付ける
取り付けるときは電工ペンチを使って”かしめる”頻繁に着脱する部分はシガーソケットなどで接続できるようにする
なにができる? なにができない?
きわめて大ざっぱな計算ですが、先述のミニ太陽光発電システムで、晴れた日に屋外にパネルを出せばおよそ2~3日でバッテリーを満タンまで充電することができます。バッテリーには、満タンの状態で 12V×7.0Ah = 84Wh の電気が蓄えられます。このうち70%を使用できるとすると2)、一回の充電で84Wh×70% = 58.8Wh の電気が利用可能、ということになります。
一方、LED電球の消費電力は3.9Wですが、DC-ACインバーターで直流を交流に変換する過程で20%程度のロスが生じてしまうので、実際には4.9Wの電力を消費することになります。使用可能な蓄電量をLED電球の消費電力で割ると、およそ12時間の連続点灯が可能ということになります。スマートフォンを充電するときの消費電力も似たようなものなので、おそらく5,6回は充電させることができるのではないでしょうか。
もう少し消費電力の高いものとして、20Wのノートパソコンを使うとすると、おおむね2~3時間は稼働させることができます。普段使いとしては心許ないかもしれませんが、非常用のちょっとした電源確保としては充分使えるレベルでしょう。100Wを超える機器を使うのは現実的ではありません。
今回のワークショップで組み立てたミニ太陽光発電システムを、一般的な住宅用の太陽光発電と比較してみましょう。太陽光発電普及拡大センター(J-PEC)が公表している、住宅用太陽光発電の補助金に関するデータを見てみると、平成26年度に新たに交付が決まった住宅での平均設置容量は4.59kW、システム全体にかかる費用はおよそ180万円だそうです3)。
一方、ワークショップで製作したミニ太陽光発電はパネルの公称最大出力が10Wなので、規模としては最近の住宅用太陽光発電の459分の1、ということになります。このスケールの大きな違いからしても、エアコンや電子レンジなどを動かすのに向かないのは、想像に難くないでしょう。
もう一つ、一般的な太陽光発電との大きな違いは、独立型…電力会社の送電ネットワークと接続せずに、発電・蓄電した電気を自分の家庭内だけで使用するものである、ということです。
送電網と接続しないということは、バッテリーの容量がなくなってしまえばそれ以上は電気を使えませんし、逆にバッテリーが満タンになったとしても、余分な電気を売ることもできません(仮に売れたとしても、雀の涙にも満たないほどの額にしかならないでしょう)。
このように、一般的な住宅用太陽光発電と比べると非常に小さくて、使いみちも限られてしまうミニ太陽光発電。なんか不便なものだな…と感じてしまいそうですが、このような考え方もできます。たとえば、発電能力は数百分の一しかありませんが、価格も百分の一程度で入手することができます。ワークショップで使用した10Wのミニ太陽光の場合、材料実費はおよそ13,000円で済ませることができました。数百万円の出費は難しくても、1万円台でお試し太陽光発電…という、自然エネルギーに慣れ親しむための入り口にはうってつけかもしれません。
また、独立型のシステムであるということは、災害などによって停電が起きてしまったときに大きな意味を持ちます。一般的な住宅用太陽光発電の場合、電力会社の送電ネットワークと連携して使うのが大前提なので、基本的に蓄電装置がありません。蓄電装置付きのシステムも市販されていますが、電池が大変効果なのであまり普及していないのが現状です。停電の際にシステムを送電網から切り離して、発電した電気を家庭内だけで利用する「自立運転モード」もありますが、やはり蓄電装置がないので日中しか使うことができません。独立型の場合は、発電した電気を蓄電しながら使うのが大前提なので、雨天時や夜中でも、発電した電気を使うことができます。また、小さな発電システムなら人力で持ち運ぶこともできるので、いざという時には持って避難することも可能です。
主催してみて、気づいたこと
このようなイベントを主催してみて、気づいたことがあります。
企画の段階では、電工ペンチを片手にコードに端子をつなげて…という作業の内容から、今回のワークショップに関心を示して、参加してくれるのは中高年の男性、いわゆる“オジさん”が中心になるのではないかと予想していました。しかし、実際に問い合わせてくださった方、そしてワークショップに参加された方のうち約半数は、意外にも女性だったのです。
当初、今回のMailNewsには全く違う内容の原稿を掲載する予定でした。しかし、10月25日に仙台で開かれたE-TECとのジョイントセミナーで、このミニ太陽光発電について紹介したところ、会場にいらした方から「是非自分たちもやってみたい! どうやって材料をそろえて、どんなことをすればつくれるのか教えて欲しい!」という声をいただいたので、急遽内容を変更してこのような原稿を書かせていただいた次第でして、そのとき会場で声をかけていただいたのも、女性の方でした。
10Wという非常に小さなスケールにすることで、実用的な用途はかなり限られてしまうけれども、気軽に自然エネルギーに接することができるような場にしたい。そして、いざという時の備えも含めて、限られた電気を大切に使わなければという気持ちが、日常生活での身近なエネルギーについて考えるきっかけになってほしい。今回の「てづくりミニ太陽光発電ワークショップ&アフターミーティング」は、そのような思いも込めて企画したのですが、暮らしの中での身近なエネルギーについて考えてみたい、何かやってみたいという気持ちは、老若男女を問わず共通なのかもしれません。そのような人たちの実践の第一歩となったのであれば、主催者としてもこの上ない喜びです。
(「たのしくて、たのもしい。」てづくりミニ太陽光発電ワークショップ&アフターミーティングは、JR西日本あんしん社会財団,大阪コミュニティ財団/東洋ゴムグループ環境保護基金の助成により開催いたしました。この場をお借りして関係者各位に厚く御礼申し上げます。)
注記
- 自動車用インバーターには、一般的な乗用車用の12V電源で動作するものと、トラックなどで用いられる24V電源で動作するものがあるので間違わないように気をつける必要があります。
- バッテリーは一定以上放電し続けると急激に電圧が低下し、さらに放電させようとすると故障の原因となります。ディープサイクルバッテリーの場合、50~70%程度の利用に留めるようにすることが長持ちの秘訣です。
- http://www.jpea.gr.jp/j-pec/data/ より
(いわかわ たかし:KIESS研究員)
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