※ この記事は、KIESS MailNews 2014年7月号に掲載したものです。
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兵庫県佐用町の因幡街道大原宿(2013 年11 月撮影)。5 月23 日は、ここの難波邸という古民家を改修したお店で早めの昼食をとりました。素材にこだわったメニューで、鹿のジビエ定食もあります。
5月24日(土)に京都でKIESSの総会とシンポジウムがありました。この時、前日の金曜日から日曜日まで3日間のまとまった休みが取れたので、私の住む鳥取から京都まで自転車で行ってみることにしました。このレポートでは、自転車に乗る立場から見た日本の道路事情について、旅で感じたことを書いてみたいと思います。
旅の概要
自転車で京都を目指すといっても、1日で完走できる自信はなかったので、行けるところまで行って後は電車を利用するということで、輪行袋を持って行くことにしました。そうは言いながらも、もしかしたら完走できるかもという期待を込めて、23日(金)の朝は6時出発を目指していました。ところが、よせばいいとは分かっていながらもメールが気になり、メールをチェックして返信を書いたりしていたところ、結局出発は8時頃になってしまいました。この時点で京都までの完走は完全に諦め、ゆっくり行くことにしました。ルートは鳥取から国道53道で志戸坂峠を越えて兵庫県の佐用町に向かい、そこから国道179号で龍野を経由して姫路に出て、姫路からは国道2号で京都・大阪方面を目指すというものです。結局暗くなる前に辿り着けたのは神戸の三ノ宮までで、そこからは阪急電車で京都に向かいました。夕方6時半頃の三ノ宮駅は通勤客とこれから飲みに行こうという人達の待ち合わせでごった返していました。そんな中で汗のにじんだサイクリングウェアを着て自転車の車輪を外し、輪行袋に詰め込んでいる私はかなり場違いな感じでした。この日は走行距離182km、所要時間10時間40分(うち走行時間:8時間11分)、平均速度17.0km/h(走行時平均速度22.2km/h)、坂道を登った際の高度上昇量の合計が1,071mでした。
復路の25日(日)は、ハーンさんと寺町通りの下御霊神社近くにある喫茶店で朝食を済ませた後、10:00頃にKIESS事務所を出発しました。この日は取りあえず京都から国道9号で福知山を目指し、そこで余裕があったら和田山、更に余裕があったら豊岡経由で日本海を目指すという事を考えていました。この日は走行中の平均気温が28.7℃、最高気温が34.0℃と暑く、走り出すと早々にヘバッテしまい、1時間ごとにコンビニに寄っては冷たい飲み物で体を冷やすという感じでした。このため、夕方5時頃に朝来市の和田山駅に着いたところで、まだまだ十分明るかったにもかかわらずギブアップしてしまいました。ここからは自転車を電車に積み込んで豊岡に行き、豊岡から各駅停車のディーゼルカーに乗り換えて鳥取に向かいました。山陰本線は豊岡から先が単線で、しかも鳥取までの直通はなく浜坂駅での乗り継ぎが必要なため、かなり時間がかかります。夕方の5時頃には自転車走行を切り上げたにもかかわらず、鳥取駅に帰り着いた時には夜の9時頃になっていました。この日の走行距離は122km、所要時間7時間13分(うち走行時間5時間35分)、平均速度16.7km/h(走行時平均速度21.9km/h)、高度上昇量は925mでした。
鳥取~京都のルートマップ
自転車から見た日本の道路の問題点
(1)狭く汚い路側帯
クルマを運転しないため道路事情に疎い私が今回の旅で知ったことの一つが、国道といえども日本の地方の道路事情は良くないということでした。往路は国道53号、国道179号、国道2号。復路は国道9号というように、今回のルートのほとんどが国道だったのですが、その大半が片側1車線で、しかも歩道がありませんでした。歩道のない道では車道の左側に白線が引かれ、その外側が路側帯となっています。しかし、そこには砂利や小石が溜まっていたり、クルマのライトが割れたガラス片が混じっていたりで、タイヤが細く、しかも高圧にしているロードレーサータイプの自転車の場合、小石を踏むたびにハンドルをとられ、そこを走り続けるのはかなり厳しい状況があります。このため白線の上かやや車道寄りを走ることになるのですが、クルマに追い越されるとき、特にトラックなどの大型車に追い越されるときには路側帯に避けるしかなく、その度に緊張を強いられることになります。
また、車道と路側帯との境目の白線付近は、大型トラックの重みに耐えかねてか、白線の辺りが山形に盛り上がり、車道側が窪んで轍ができていることがあります。こういうところでは、自転車は轍の傾斜した部分を走る羽目になるのですが、そこには縦に亀裂が入っていることがあり、亀裂にタイヤをとられると、即転倒ということにもなりかねません。自転車に乗る立場からすると、路肩側の砂利や小石の溜まったゾーンを避けても自転車が安全に走れる部分が残る程度に路側帯の幅を広げて欲しいと思います。自動車の側から見ても、急な登り坂などで、狭い路側帯を自転車がよろよろ走っているのは、かなり邪魔だと思います。
(2)橋とトンネル
今回通った道路の中には十分な幅の路側帯や歩道のあるところもありました。しかし、そういう道でも橋やトンネルにさしかかると、歩道が無くなったり、路側帯の幅が狭まってしまいます。トンネル内は、車道境界の白線の外側は蓋をされた側溝だけ、ということがよくあります。長いトンネルの場合には、歩道はなくても幅1m弱の避難路が設置してあります。路側帯が無い上に交通量の多いトンネル内を自転車で走るのは非常に危険なので、避難路がある場合にはその上に自転車を乗せて押して歩くようにしていました。国道であるからには、トンネル内も少なくとも片側には車道とガードレールで隔てられた歩道を設置して欲しいと思います。
トンネルについては他にも注文があります。鳥取自動車道の志戸坂トンネルは一般道との共用区間になっていて、鳥取から姫路方面に向かう上り線側に歩道があります。しかし、歩道の上にはクルマから捨てたと思われる空き缶やペットボトルなどのゴミが散乱し、溜まった土埃には自動車のライトが割れたガラス片も混じっていました。道路管理者には歩道の上もきちっと清掃し、通行の安全を確保して欲しいと思います。
(3)蓋のない側溝
今回の旅で一番危険を感じたのが蓋のない側溝でした。福知山から和田山に向かう国道9号でのことなのですが、そこでは道路の左側がコンクリートの擁壁で、それと車道との間に側溝があるのですが、蓋がしてありません。しかも、側溝は深さが1m以上あるので、自転車で走行中に落ちれば間違いなく怪我をします。ここで大型トラックに追い越されたときには、かなりの恐怖を感じました。このようなところでは、側溝に蓋をするか、それが出来ないならば、側溝と道路の間に転落防止のガードレールを設置して欲しいと思います。
おわりに
温暖化防止の観点から、「自転車の利用を進めましょう」というようなことが言われるようになってもう20年くらい経つと思うのですが、日本では未だに自転車を利用する物理的環境が整っていません。都市内の道路には自転車レーンが整備され、郊外では自転車道が整備されているドイツなどの状況と比べると、自転車利用環境の整備という点で日本はかなり後れを取っています。この国では未だに温暖化防止に逆行する高速道路の整備が進められていますが、自転車に乗る身からすると、「そんなお金があったら自転車道を整備してくれ!」と言いたくなります。今回通ったルートも、自転車に乗る立場からすると、「国道」というよりは「酷道」でした。そんな日本の中で、京都は自転車利用の先進地域なのだと思います。帰路では三条京阪近くの事務所から国道9号に出る途中で五条通を通ったのですが、そこには自転車専用レーンが整備され、自動車、歩行者、自転車が分離されていました。ただし、ここにも少しだけ注文があります。往路で180km走ってお尻が痛くなっていたため段差に敏感だったせいもあるのですが、交差点などにある細かな段差が気になりました。自転車乗りの立場からすると、なくせる段差はなるべくなくして欲しいと思います。
半分冗談ですが、私の将来の夢は石油切れでクルマの走らなくなった高速道路を自転車で旅することです。上り下りの少ない高速道路は自転車走行にも向いています。舗装の良い高速道路ならば、ロードレーサーに乗って平均時速30キロで巡航することは難しくないでしょう。鳥取から京都まで高速道路を自転車で走る日を夢見て、トレーニングを続けたいと思います。因みに現在の私の1時間平均最大出力(FTP:FunctionalThresholdPower)は180Wで、当面の目標はこれを200Wにすることです。
(あらた てつじ:KIESS事務局長・鳥取環境大学准教授)
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