「一緒にいる時間」からみたライフスタイルの変化(岩川 貴志:MailNews 2012年2月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2012年2月号に掲載したものです。

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民生部門(家庭やオフィスなど)のエネルギー消費は,今日でも依然として増加傾向にあります。たしかに,エアコンや冷蔵庫といった機器の効率はよくなってきているのですが,それでもエネルギー消費が増え続けているのはなぜでしょう?

その大きな原因として,我々の日常における“ライフスタイル”の変化があげられます。図1は,過去50年間の家庭の世帯人数の構成比と,平均人数をあらわしたものです1)。単身で,あるいは2人で暮らす世帯の割合は,この50年の間に2~3倍に増え,その一方で5人以上の家族で暮らす世帯は5分の1以下に減少しました。2010年の単身世帯の割合は全国平均で32%,およそ3件に1件の家庭はひとり暮らしということになります。都市部になるとこの値はさらに大きくなり,京都市では43%,東京23区では49%もの家庭がひとり暮らしです。ひとりで暮らすということは,そのぶん自分だけの時間・空間をもって生活しているということであり,そのぶん自分だけのためにエネルギーを使っていることにもなります。また最近では,やむなく一人で暮らしている高齢者世帯も増えてきており,福祉の面からも深刻な問題として取り上げられています。

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図1 世帯人数の構成と平均の推移

また,二・三世代の家族で暮らしている場合でも,もし食事や入浴の時間がまちまちであったり,それぞれが自分の部屋で過ごすようになれば,一つ屋根の下であっても自分だけで過ごす時間が増えるわけで,こういった生活スタイルの変化もやはりエネルギー消費の増加につながることになります。たとえば家庭での暮らし方とエネルギー消費に関する調査研究2)によると,夕食後に家族それぞれが個室に戻って過ごす家庭は,食後もリビングに集まって過ごす家庭と比べて,エネルギー消費(一次換算)が約20%多かったそうです。ひとりで気楽に過ごすひとときというのは誰しも必要なものですが,あまりに個々人が過度に求めると,社会全体としてのエネルギー消費を増加させるほどの影響を及ぼしてしまいます。家庭や家族に限らなくても,友達や同僚と,あるいはコミュニティの一員として地域の人々と一緒に過ごす機会を増やすことができたなら,周りの人たちと時間・空間を共有することにつながり,結果としてエネルギー消費を大きく削減させることが可能になるでしょう。

実際に,我々の日常生活におけるライフスタイルはどのように変わってきたのでしょうか?簡単にではありますが,統計資料をもとに過去の推移を分析してみました。

総務省が5年に一度,「社会生活基本調査3)」という統計を実施しています。この調査のなかでは,国民のライフスタイルについて“生活時間”というものに着目し,一日のなかでいつ,どれだけ,どのような行動をおこなったのか,アンケートを実施して集計したものが公表されています。時々ニュースで,中高生の読書時間が減ってきているとか,男性の育児参加が増えてきたが女性と比べると依然大きな差がある,といった話題を見かけますが,その根拠としてよく用いられているのが社会生活基本調査です。

社会生活基本調査では,平成8年(1996年)から,行動の内容と時間に加えて“一緒にいた人”が尋ねられるようになりました。ここではその“一緒にいた人”に着目して,平成8年の結果とその10年後,結果が公表されている直近年である平成18年(2006年)を比較してみたいと思います。

図2は一日のうちのさまざまな行動(睡眠を除く)の平均時間がどれだけ増減したか,「家族といる時間」「学校・職場の人といる時間」「その他の人(知人など)といる時間」「一人でいる時間」の内訳ごとにグラフ化したものです。1次活動とは朝晩の身支度や食事に関する行動,2次活動とは仕事や学業,家事に関する行動,3次活動とはそれ以外の,主として余暇時間における行動をさし,縦軸の中心,0より上にあるのが増えた時間,下にあるのが減った時間を意味します。たとえば3次活動の場合,平成8年~18年のあいだに,一日のうち一人で行動している時間が19分増え,家族と一緒に行動している時間が2分減り,学校や職場の人と一緒に行動する時間が7分減り,その他の人と一緒にいる時間が2分減っていることを意味します。合計の値をみると,この10年の間で日本人は,一日のうち約30分「一人でいる時間」が増えており,それに対して「家族といる時間」「学校・職場の人といる時間」「その他の人といる時間」はすべて減少傾向にあります。

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図2 活動の種類別の「一緒にいる時間」の変化

図3と図4は,男女別の各年代について,“一緒にいた人”と過ごした時間の変化をまとめたものです。二つのグラフをみると,性別や年代によってこの10年間の生活行動の変化が,かなり異なっていることがうかがえます。

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図3 年代別の「一緒にいる時間」の変化(男性)

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図4 年代別の「一緒にいる時間」の変化(女性)

男性の場合,ほとんどの年代で「一人でいる時間」が大きな伸びを見せており,特に50代後半~60代では一日のうち1時間近く増えています。かわりに大きく減っているのは「家族といる時間」で,30代~80代前半の各年代で一日およそ20~40分減っています。「学校・職場の人といる時間」も大きく減っていますが,40代~50代前半,いわゆる働き盛りの中心層ではほとんど変化がありません。

一方で女性の場合,やはり20~40代で「家族といる時間」が大きく減少していますが,その大きな原因は社会進出の機会が増えたためで,かわりに「学校・職場の人といる時間」が伸び,「一人でいる時間」ではさほど目立った変化は見られません。しかし60代以降,子どもが親元を離れて暮らすような年代になると,やはり「家族といる時間」が減り「一人でいる時間」が増える傾向にあります。

また「その他の人といる時間」は,男女問わず若年~中年層で若干減少し,高齢になると増える傾向にあります。現代社会では友達付き合いや近所付き合いが希薄になりつつあると言われていますが,高齢者に限っていえば,元気な人が増えたためか,むしろ積極的に外に出て交流しようという気持ちが高まっているのかもしれません。

以上の考察をもとに結果を眺めてみると,20代後半~60代にかけての男性は,もっぱら家族や仲間と一緒にいる時間を減らし,そのぶん一人でいる時間を増やし続けているようにも見えます。家庭生活やコミュニティづくりの側面から人々のライフスタイルを変えていこうとする場合,いちばん重点的に的を絞らないといけないのは,もしかしたらこの層なのかもしれません。

とはいえ,かくいう筆者(35~39歳・男性)も京都で一人暮らしをしているので,あまり偉そうなことを言えた立場ではないのですが…

参考文献

  1. 総務省統計局:国勢調査.http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/
  2. 旭化成ホームズ株式会社 くらしノベーション研究所:家族の「場」を重ねる暮らしとエネルギー消費の関係調査報告書,2011.
  3. 総務省統計局:社会生活基本調査.http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/

(いわかわ たかし:KIESS研究員)

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