人類持続社会は誰もが役割を持つ社会(2)(内藤 正明:MailNews 2011年12月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2011年12月号に掲載したものです。

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環境問題は人間活動のツケ

環境問題は「産業公害」が最初に顕在化しました。次いで,都市化に伴う「都市型公害」,さらに広域の「自然破壊」へと拡大してきました。このように,問題が空間的にどんどん拡がり,地球規模に達したのが「地球環境問題」です。このように,人はその活動のツケを次々に外に拡大し,とうとうこれ以上はない究極まできたのが地球環境問題といえましょう(図1)。

 

図1:環境問題の拡大

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長い人類の歴史の中でも,人間がこの一世紀に使ったエネルギー量は圧倒的で,多分このような消費は二度とはできないでしょう。その結果として,あらゆる資源の収奪とその廃物の放出が,いよいよ地球環境の受容量を越えたのが今日の危機です。

ではなぜこのような人間活動の巨大化が起こったのでしょうか。モノの豊かさを求める人間の欲望がすべての元にあることは確かです。しかし,その欲望は市場経済の中で人為的に作り出されたことも否定できません。そして問題は,そのような大量消費を可能にしたのが 石油に支えられた近代技術にあることです。つまり「本来の人間の欲望」とそれを進めた「経済の競争原理」,そしてその推進を可能にした「石油依存の産業技術」が相まって,二十世紀型の大量消費文明を作り上げたことこそが,人類危機の原因であるといえましょう。

このような中で,これまで人類が享受できなかった豊かさを,先進国といわれる国々で実現し,今ではそれが多くの国に拡大しつつあります。これは人類の技術文明の勝利であり,これからは夢が次々と叶えられると,将来に無限の夢を描きました。しかしこれは,資源と地球環境が無限であればの話です。もし有限なら,誰かの消費は他の誰かの機会を失うことになります。それは経済的に貧しい人々であり,物言えぬ将来世代,生物などですが,これらはすべて弱者です。ここに,環境問題が福祉問題と根底で共通する側面があることに気付かされるでしょう。

 

現代技術がもたらしたもの

近代の技術についていえば,このような地球の危機だけではなく,人間の生活・生存に与えたさまざまな影響も歴史を見れば明らかです。それはまず戦争のために急速に発達し,多くの悲劇を生み出しました。戦争が終わると「軍需」から「民需」ということで,いよいよ民の幸せに科学技術が使われるのだと希望を抱きました。けれども,その民生技術も実は企業の経済競争のための道具として発展し,そこでは経済効率を尺度にした大規模・大量生産技術が作り出され,これが結局いまの地球環境と資源の危機的状況を引き起こしたことは,否定できない事実です。

また,近代技術や制度は,人の心と体に対しても大きな影響を与えました。しかもその解決が困難なのは,「技術」そのもの本質に関わるからです。つまり技術とは本来,ヒトの持つ身体能力を助ける手段ですから,これは弱者にとっては望ましい一面です。しかし一方で,これまで他人と力を合わせ,自然の恵みをいただくことでようやく可能であったことが,技術によって簡単にできるようになったとき,ヒトは他人や自然の恩恵を感じなくなるでしょう。それに代わって必要となるのはお金です。その結果,感謝や協力,我慢や畏敬といった感覚も不要になってきました。このことを認識することが,これからの技術や社会システムの見直しには不可欠です。

そして最近の,“人が社会で必要とされない”現象が,技術のもたらす社会への最も深刻な弊害かもしれません。技術が人の手足を補助する役目に留まっていた段階では,人にはそれを使いこなす仕事が残っていました。しかし,近年のIT化の進展は,頭脳を持った機械に人が使われて単純労働をマニュアルでこなすような状況を作り出しました。あとはそれを管理する一握りの管理者だけが必要で,両者の間に大きな社会格差が生じてきました。また雇用自体が少なくなって,特にハンディーのある人の就労機会が限られて,非雇用者,半雇用者が社会に溢れることになりました。

 

今後への示唆

経済競争と近代技術の恩恵を受けるのは一握りの勝者で,多数の弱者はマイナスのみを集中的に受けることとなります。国のレベルでいえば,気候異常で旱魃に苦しむアフリカや海面下に沈もうとしている南の島々がその例です。地域や個人のレベルでいえば,地方の集落や社会的弱者です。

これからはどのような立場,どのような特性を持つ人であろうと,誰もが生き甲斐をもって活動できるような社会をつくるために,近代産業社会から真の市民社会へと転換すべき時が来たといえましょう。そのためには,このような技術や国際経済の仕組みの実態,さらにはそれをよしとする社会の目標から人の倫理観にまで深く遡って,考えなければならないでしょう。

 

(ないとう まさあき:KIESS代表理事・京都大学名誉教授)

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