人口減少とごみ問題(楠部 孝誠:MailNews 2018年3月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2018年3月号に掲載したものです。

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はじめに

低炭素社会あるいは循環型社会の構築に向けて,様々な活動がなされている一方で,地方では人口減少による過疎化,少子高齢化への対応が最重要課題となり,ともすれば,人口減少に伴い,何もしなくてもCO2排出量やごみ量が減っていくといった皮肉な状況が見込まれています。そのため,これらの地域ではCO2やごみを積極的に減らすというよりも,それらが減ることを前提とした社会システムへの移行が重要な課題になっています。さらに,子や孫が地域を離れてしまうことで,買い物や病院など住民生活に支障が生じるとともに,税収の低下により公共サービスの維持も難しくなり,住み慣れた場所で暮らすということも容易ではありません。ここでは,ごみ問題を通じて人口減少がもたらす社会システムの今後について考えてみたいと思います。

ごみ処理施設の運営にみる人口減少の影響

バブル期のごみ増加の懸念から多くの地域でごみ減量やごみの有料化が進むとともに循環基本法を始めとする一連のリサイクル法が2000年前後に施行され,ごみの分別資源化が急速に進んだ結果,焼却ごみは減少を続けています。焼却ごみが減少すること自体は望ましいのですが,一方で長期的な視点では今後の人口減少やごみ減量政策がごみ焼却施設の運用に大きな影響を与えます。喫緊の課題は直近10~20年の間にごみ焼却施設が更新期を迎える点です。近年の焼却施設の耐久年数は25~30年程度と言われているため,これから更新される施設は今後30年間強のごみ量の変化を考慮して,処理能力を策定しなければいけません。さらに,焼却施設の更新には施設設計,アセスメントなど着工に至るまでどんなに急いでも5~10年の時間を要します。そのため,特に今後2050年までの約30年間で大幅に人口減少が予測されている地域では焼却施設の更新や統廃合を含め,ごみ処理体制全体の検討が困難を極めています。また,人口減少や高齢化が進行すれば,税収減によるごみ処理サービスへの経済的圧力から,ごみリサイクルのための施設整備や分別回収システムが更新できないことも問題になります。

一方,国は人口減少に伴い,小規模な市町村が単独でのごみ焼却は非効率であることから,ごみ焼却施設の効率的運用のため,複数の市町村が共同でごみ処理をする「ごみ処理の広域化」を進めています。概ね広域化には2つの方法があり,1つは複数の小規模自治体が共同で施設を立地・運営する方法であり,もう1つは,これまでとは逆のパターンで都市から周辺地域へごみが移動するのではなく,周辺地域から中核都市へごみを集める方法,つまり核となる中規模自治体に周辺の小規模市町村がごみ処理を委託する方法です。前者の場合,ごみ処理施設の効率的な運用(ごみ発電が可能になる)には日量300t,最低でも100tの焼却ごみが必要です。日量100tは,現在の1人1日あたりのごみ排出量水準でいえば,10万人が排出するごみに相当します。そのため,地方の小規模市町村が集まって10万人規模とするには10以上の市町村が共同処理に取り組まなければなりません。共同処理を実施するためには,焼却施設の立地選定や施設運営,分別回収方法の統一など,問題は山積しています。さらに,施設運営費の負担問題が市町村間の合意形成を難しくします。また,多くの場合,ごみ量や人口に応じて,処理負担を担うため,人口やごみの急激は施設の運営負担に大きな影響を与えるため,市町村間の合意形成を難しくしています。

後者の場合は核となる中規模市に小規模市町村がごみの処理委託をします。中規模市は持ち込まれるごみ量に応じて,処理料を受け取りますが,施設運営や維持等を考えれば,ごみを受け入れるメリットはそれほど多くありません。このため,ごみ処理の広域化はごみ焼却施設の更新以上に合意が難しいため,特に小規模市町村はごみ処理に頭を抱えることになっています。

過疎化と産業廃棄物の最終処分場問題

ごみを処理すること以上に問題になるのが,焼却したごみや燃えないごみを埋め立てる最終処分場問題です。ここでは,石川県輪島市の産業廃棄物最終処分場問題を通して,過疎地域の抱える問題について考えてみたいと思います。

この問題の発端は2001年に過疎化・高齢化で限界集略であった5世帯8人の地区住民が将来的な地域運営を危惧し,住民全員の移転を条件に民間の産業廃棄物処分場の誘致をしたことに始まります。処分場は53ha,345万m3の容量で,今後48年間で石川県を中心に毎年約7万トンの産業廃棄物を受け入れる計画で実際に事業化が決定しつつありました。しかし,その協議が進む中,2006年1月に処分場の計画が公表されましたが,翌2月に隣接する旧輪島市との市町村合併が起こります。それを契機に自然環境の悪化,処分場に対する不安,観光業への風評被害などの懸念から当該地区以外の周辺住民,漁業関係者,観光業関係者を中心に事業の見直しが求められました。市議会も同年および2011年の2回にわたって,設置の反対意見書を可決しました。しかし,その後も協議は続けられ,2015年に最終処分場会社が処分場の処理排水の計画を見直したことにより,市および市議会,許認可権を持つ県が再検討することになり,翌2016年の市議会で建設容認に一転します。しかし,当該地区以外の住民,特に処分場の下流域の住民が市や市議会が住民の声を聞かずに計画を進めたとして反発し,産業廃棄物処分場建設の是非を問う住民投票のための署名活動を行い,翌2017年に住民投票の実施が決定しました。この住民投票は投票率が50%を下回ると不成立となるため,建設賛成派は棄権を呼びかける運動を展開するなど住民投票としては問題点もありました。2017年1月に行われた住民投票では投票率が42.02%と50%を下回ったため,住民投票は不成立となり,開票されず,市側は処分場の受け入れを進める方向ですが,行政側と市民側に大きなしこりを残す結果となっています。

最終処分場の新規建設に関しては,全国どこでも同じように反対運動が起こるのが一般的です。NIMBY症候群と言われるように迷惑施設の必要性は感じているのですが,自身の居住地域の近くには要らないというのが一般的な見方です。昨今はリサイクルがブームになり,ともすれば,ごみ分別やごみ減量に取り組んでいるのだから,最終処分場はもはや不要のように感じているのかもしれません。しかし,ごみを焼却すれば,焼却灰が必ず発生するし,燃えないごみはどこかに埋め立て,時間をかけて安定化しなくてはなりません。輪島市の場合,住民が自発的に処分場を誘致し,補償を受けて移転するという稀有な例ではありますが,過疎地域では今後同様の問題が生じる可能性が決して少なくないと思います。

古紙の集団回収にみる地域コミュニティの弱体化

ごみ減量に向けて自治体ごとに分別項目は異なりますが,ほとんどの自治体で紙のリサイクルのための古紙回収が行われています。古紙回収の方法は行政回収,集団回収,拠点回収かのいずれかです。行政回収は文字通り,行政がごみステーションなどに住民が分別排出した古紙を回収する方法であり,集団回収は地域の町会や小中学校PTA,各種団体が中心となり,古紙を回収し,古紙業者に有償・無償で引渡す方法です(古紙排出までの取りまとめを地域の団体が行い,収集は古紙業者に依頼するケースもあります)。集団回収の場合,行政は古紙回収自体には関与しませんが,ごみ減量への積極的な取組みとして,回収量に応じて,資源化促進費という形で数円/㎏の補助を出して,バックアップしているケースが多いです。拠点回収は,公共施設やスーパーなどに古紙回収拠点を設置し,住民が持ち込む方法です。

人口減少が古紙回収,特に集団回収にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

集団回収では,地域の町会や小中学校のPTAが回収を担うわけですが,共働きの世帯が多い地域,少子化が進むあるいは高齢化で町会組織が弱体化している地域の場合,一部の住民に負担が偏り,集団回収自体が困難になっています。また,町会やPTAなどに所属していない世帯への周知が徹底化できないため,思うように回収量が伸びず,負担ばかりが多くなるという問題もあります。集団回収が難しくなれば,行政回収をせざるを得ないわけですが,そもそも集団回収は行政の回収コスト負担を減らすために始まった側面もあるため,拠点回収に移行することが考えられます。回収拠点が近くにあったり,車を自分で利用できる場合はリサイクルが可能ですが,それができない人や高齢者の方は,結果として燃えるごみとして捨てざるを得ないことになり,ごみ排出の負担ばかりが増えることになります。

また,古紙に限らず,昨今は分別項目の増加で特に高齢世帯においてごみ分別に混乱をきたし,ごみ排出が困難になるケースも増えています。以前であれば,高齢者のごみ出しを隣近所が協力することも多かったのですが,最近は隣近所との付き合いが少なくなり,相互協力が難しくなっています。わが国では住民によるごみ分別排出が,リサイクルの大部分を支えていると言っても過言ではないため,地域コミュニティの弱体化はわが国のごみのリサイクルシステムの基盤を崩すことになりかねません。

さいごに

今回はいくつかのごみ問題を通して,人口減少や少子高齢化とごみ問題についてご紹介しました。人口減少や少子高齢化が過疎化,地域コミュニティの弱体化を引き起こし,ごみ収集だけではなく,今後はリサイクルシステムの崩壊さえ危惧される状況になりつつあります。人口減少や高齢化への抜本的な対策があるわけではありませんが,ごみ問題という1つの視点からも地域コミュニティの重要性,持続性が求められています。

(くすべ たかせい:KIESS理事・石川県立大学講師)

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