※ この記事は、KIESS MailNews 2016年9月号に掲載したものです。
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はじめに
図1:ごみ排出量の推移
平成12年をピークに家庭から排出されるごみは年々減少している。これは,ごみの減量や資源化政策の下で,住民の努力によるところが大きいわけだが,平成25年度の家庭から排出されるごみを見れば,まだ約3,000万トンと相当な量のごみが排出されている(図1)。今後,さらなるごみ減量あるいは資源化を進めるためにはどうすればいいのか。
家庭ごみの中でも最も資源化が進んでいないのが生ごみである。容器包装プラスチックのリサイクルが進んだことで,可燃ごみに占める生ごみの割合は重量ベースで30~40%,多いところでは50%を占めるに至っている。つまり,生ごみの資源化が進めば,大幅にごみの削減につながる。この生ごみ処理に積極的に取り組む自治体が増えつつある。
生ごみの資源化と言えば,これまでは堆肥化が中心であったが,現在は地球温暖化対策にも貢献するとしてメタン発酵に取り組む自治体が注目されている。メタン発酵の実施には施設の初期費用問題や発酵後の消化汚泥の処理など様々なハードルがあり,どの地域でもすぐに実施できるわけではないが,ここでは先駆的に取組む自治体を紹介し,今後のごみ処理について考える。
先駆的にメタン発酵に取り組む自治体の事例
(1)福岡県大木町の取組み
写真1:福岡県大木町の取組み
平成18年から家庭の生ごみの循環利用を目的に,家庭系生ごみ1.9t/日,事業系生ごみ1.5t/日,し尿6.0t/日,浄化槽汚泥23.2t/日を混合してメタン発酵を実施している(写真1)。
まず,家庭内で住民が専用のバケツで生ごみを分別し,指定場所に設置された大型バケツに排出し,週2回回収する。生ごみの排出が無料であるのに対して,燃えるごみは有料化されているため,生ごみ分別へのインセンティブが働いている。集められた生ごみはし尿および浄化槽汚泥と混合,メタン発酵され,発生するメタンガスは場内で発電利用されている。また,メタン発酵後の消化汚泥は液肥として農業利用され,少量であれば,農家や家庭菜園用に無料配布されている。
(2)新潟県長岡市の取組み
写真2:新潟県長岡市の取組み
平成25年から家庭系生ごみ40t/日,事業系生ごみ25t/日を対象としたメタン発酵施設を稼動させ,平成26年度では年間15,341t(発酵不適物3,754t を含む)の生ごみを処理しており,自治体が運営する生ごみを主としたメタン発酵施設としては最大規模の施設である(写真2)。
まず,生ごみ回収だが,元々可燃ごみ回収が週3回であったものを週2回は生ごみ回収日に,残りの1回を可燃ごみの回収に変更した。生ごみは専用のごみ袋で排出するが,長岡市も可燃ごみを有料化しており,生ごみ専用袋も有料ではあるが,燃やすごみ袋よりも安く設定されているため,大木町と同様に生ごみ分別への誘導を図っている。発生するメタンガスは再生可能エネルギーの固定価格買取制度,いわゆるFIT制度を利用し,余剰電力を売電している。また,消化汚泥は脱水・乾燥処理後,燃料として利用している。
(3)山口県防府市,南但広域行政事務組合の取組み
山口県防府市および南但広域行政事務組合(兵庫県養父市,朝来市)も上述の例と同様に家庭ごみをメタン発酵しているが,大きく異なるのは生ごみを分別回収していないという点である。住民は生ごみを分別することなく,可燃ごみとして排出する。可燃ごみは回収した後,機械選別を行い,メタン発酵と焼却処理へ分けて送られる。機械選別であるため,完全に生ごみだけを分別しているわけではなく,紙ごみもメタン発酵に供されるため,メタンガスの発生量が多くなる。また,メタン発酵後の消化汚泥は下水汚泥処理に回され,不適物は焼却へ返送されている。
各取組みのメタン発酵の導入におけるポイント
これまで,メタン発酵は畜産ふん尿や下水汚泥処理などに利用されてきたが,生ごみは畜産ふん尿や下水汚泥と比較して,含有する炭素分が多いため,メタンガスが多く抽出できる。このメタンガスから発電すれば,FIT制度を利用することができ,通常よりも高い価格で売電を行うことが可能になり,事業収支の改善に大きく貢献できるようになった。しかし,メタン発酵を導入するための財政的な要因として,施設建設のための初期費用の負担とメタン発酵後の消化汚泥の処理費用にある。
この二つの点から改めて上述の事例を見れば,まず,大木町がこの施設を導入した契機は,それまで海洋投棄していた町内のし尿と浄化槽汚泥がロンドン条約により,海洋投棄ができなくなり,処理方法の転換に迫られたことによる。そこで,し尿・浄化槽汚泥処理施設が必要となったわけだが,同時に生ごみの循環利用を目指してメタン発酵技術を採用した。そのため,単独でメタン発酵施設を導入したわけではなく,し尿・浄化槽汚泥処理施設という色合いが濃いため,通常問題となる初期投資が大きな障害とならなかった。また,消化汚泥を液肥利用しているため,消化汚泥処理の点もクリアしている。
新潟県長岡市や山口県防府市の場合は,市町村合併による焼却場の統廃合と焼却施設の更新のタイミングが合致したことにより,施設導入に至っている。また,PFI事業として実施し,FITを活用していることもこの問題を克服する要因になっている。さらに,これらの事例ではメタン発酵施設を焼却場や下水処理場に併設することで,処理後の夾雑物の処理,消化汚泥の処理の効率化を図っている。
さいごに
家庭ごみに含まれる生ごみを資源化する,あるいは減量することの狙いは何か。冒頭でも述べたが容器包装プラスチックなどのリサイクルの推進に加えて,特に地方においては人口減少が起こり始めていることから,焼却場の余剰能力(処理能力に比べて処理対象となるごみが減っている)が問題になってきており,ごみ処理施設の効率的な管理という点から焼却場の統廃合やごみ広域化処理の必要性に迫られている。同時に全国の半分近くの焼却場が建替更新期を迎えていることから,これを契機に生ごみをメタン発酵処理や堆肥化すれば,施設の更新時に焼却場を小規模化でき,施設負担を大きく軽減できるため,現在多くの自治体が生ごみ処理を検討し始めているのである。また,これを後押しするように,食品リサイクル法の基本方針が2015年に変更され,家庭から排出される生ごみも積極的に資源化するように示されたことも大きい。そもそも生ごみは水分が80%以上であることから,焼却処理に向いている廃棄物ではないため,ごみ焼却発電を実施している大規模な都市部の焼却場でも生ごみを切り離すことは有利に働く。また,地方の一部地域では生ごみを回収せず,自家処理とする自治体もある。生ごみが自家処理されれば,ごみ回収負担が大幅に低減するため,今後人口減少が予測される地域ではこのような方法で生ごみ処理をする自治体も出てくる可能性は少なくない。
今後,生ごみの処理に自治体がどのように対応するかによって,その地域のごみ処理全体の体系や費用負担が大きく変わるが,生ごみ処理には住民が密接に関わる問題であるだけに注目されるところである。
(くすべ たかせい:KIESS理事・石川県立大学講師)
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