※ この記事は、KIESS MailNews 2011年4月号に掲載したものです。
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3月11日の東日本の大震災がこれからの日本の社会構造すべてに亘って,大きな影響を与えることが予想される。それは,単に規模が巨大だったということではなく,その質においてこれまで経験したことのない事態が生じたことです。例えば,人と人の絆の大事さについては,すでに阪神淡路の震災で十分経験したことで,NPOが社会的な認知を得る契機になったとされます。しかし,今回はそれとは異なる多くのことを再認識させてくれました。
一つは,「恵みを与えてくれた“自然”が同時にそれを根こそぎ奪い去る」ものであるということです。漁業や農業など一次産業が生業である彼の地は,自然の恵みがその豊かな街,社会を創ってきたことが実感されます。それを一瞬で消滅させたのも自然です。これを考えると,自然と真剣に向き合う付き合いの仕方を再考することが求められているのでしょう。もう一つは,「被災した人々の支援を通して,我々の社会はいかにたくさんの近代技術とその製品に支えられた生活をしているか」ということです。またそれは同時に,「大きな災害を受けたとき,いかに脆弱であるか」ということの認識です。
そして,最後はいうまでもなく,原子力発電の是非の判断を改めて迫ったことです。
原発を拒否する世論が高まれば,これからのエネルギーの選択が問われることは勿論ですが,それは社会の在り方そのものの選択を迫ることになります。特にこの数年,脱温暖化を目指して二酸化炭素の削減が議論されてきましたが,最近ではその削減の将来目標が,50%とか80%といったレベルになっています。これと並行して,「石油ピーク(生産量が頂点を越えて減少し始めている)」も危惧され,この両方から急激な脱石油社会への転換が迫られています。
問題はそれへの対処方針です。国の方針は,原子力を前提にした先端技術依存型でありましたので,もし原子力が今回の震災で否定されることにでもなると,そのシナリオ自体が成り立たなくなります。もし,エネルギーとして太陽由来の自然エネルギーへの移行を選択するなら,いくら技術が進歩しても,その絶対量は限られていて,質的に不安定なので,エネルギー依存の人の活動(生活や生産)水準を全体として大きく下げるしかなくなります。
我々が主張してきた「自然共生型社会のシナリオ」は,地域の資源と人の力で,伝統文化を拠り所とする社会ですので,国の方向もそのような社会像をある程度認知せざるを得ないことになるのではないでしょうか。また,そのような変革は日本だけではなく,世界中にも広がる気配があるので,この震災はエネルギー多消費の近代技術文明の転換点となるかもしれません。
今回の災害が私達に残してくれた貴重な教訓を,今後の新たな持続可能な国,地域社会づくりに活かすことが,多大な犠牲を無にしない唯一の道でしょう。
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具体的には,東京のNPO環境文明21がまとめた提案1)を下に,要約してみました。
(1) エネルギー政策の抜本的見直しと政策形成の民主化
原発の低コスト・安定供給神話の崩壊で,市民の生命基盤であるエネルギー政策が,経済産業省,一部政治家と専門家,業界を中心につくられてきたことを改め,①原子力優先から,安心・安全な再生可能エネルギーへの早期転換を図る,②市民参加のもとに,民主的な方法でエネルギー政策を形成する,③現行のシステムを見直し,エネルギーの地域分散化をすすめる。
(2) 技術万能主義からの脱却
人間の力は自然の力を越えられないことを自覚し,①自然の理に沿った技術,持続可能な社会を支える技術の開発と定着を図る。②技術者の倫理教育を徹底すること。
(3) 快適さや物的豊かさの追求からの方向転換
今回の「計画停電」は,節電や省エネもやればできること,これまでの明るすぎる照明などに気づかされました。こうしたことから,①何が,どこまでが幸せの限界効用点であるかを考え直し,②ささやかでも,安心・安全が確保され,人々との絆や信頼を基礎とした暮らし,自然との調和の中で豊かさや幸福が実感できる暮らしに転換していく。
(4) 地域資源を活用した,しなやかで強固な街づくり
石油などの化石燃料に依存した生活のもろさや,地域の自然特性を軽視した街づくりの課題を知ったことから,①地域の人材,資源に活用して街づくりをし,②他地域との連携により災害にも適応できる地域づくりを進める。
出 典
- 認定NPO法人環境文明21:緊急アピール「今こそ安心・安全で、心豊かに暮らせる持続可能な環境文明社会を!!」,http://www.kanbun.org/2011/110331urgentappeal/110331urgentappeal.html,2012.3.
(ないとう まさあき:KIESS代表理事・京都大学名誉教授)
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