アズワンネットワーク鈴鹿コミュニティ(片山 弘子:MailNews 2018年8月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2018年8月号に掲載したものです。

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次の時代の経済 ~サンデー毎日とThe Presencing Instituteの紹介記事から~

今月は、働き方改革から「しあわせのための経済」という観点と、地球に生きる人間も人間以外のものも、すべてが調和して存在しうる経済という観点で、サンデー毎日と、U理論で知られるマサチューセッツ工科大学のThe Presencing Instituteに取り上げられた内容を紹介したいと思います。

 

『働き方』と表裏一体の『休み方』—三重県の弁当屋で”休み方改革“始まる

(サンデー毎日6月24日号 NEWS NAVIから)

 

安倍晋三政権が今国会の重要法案と位置づける働き方改革関連法案は6月4日、参院本会議で審議入りした。日本人の“働き方”をめぐる議論は佳境を迎えているが、その裏返しでもある”休み方“もまた、変化の兆しがある。

独自の出勤・休暇制度で注目される店がある。「アズワン」(三重県鈴鹿市)が運営する、地元で人気の「おふくろさん弁当」。以前不動産会社で働いていた、岸浪龍社長は、営業成績こそがその人の「価値」のような気風の中で、毎日働いていたという。そんな働き方への反省から、2005年に同社を設立。目指したのは休みたい時に「休みたい」と遠慮なく言え、「人が人らしく生きられる」会社。

従業員は「休み希望」をカレンダーに書き込み、会社側がそれを参考にして、シフトを決める。調理スタッフの牛丸信さん(57)によると、現場で急に欠員が出た場合は電話やLINEで従業員に呼び掛け、代役を探す。いったん決まったシフトも、新たに「休み希望」が出れば随時、見直す。前日に「休み希望」を願い出ることも可能という。就業規則はない。

「私の場合は書籍の編集ですが、従業員は本業以外にもやりたいことができるようになりました。」(牛丸さん)

現在、従業員約60人。一日40食~50色の配達から始め、一日計1000食を製造するまでに成長した。自由な“休み方”の実践がその原動力となったようだ。

同店で半年間働きながら調査した元経営コンサルタントの吉岡和弘さん(60)がこう話す。

「仕事のやり方も出勤日・休日も、希望を出せば、誰かが応えてくれた。管理や強制をなくしても組織が回ることが驚きでした。」

“働き方改革”につなげるべく導入された毎月末金曜日早帰り「プレミアムフライデー」も、いまだ存在感は薄い。同店のような、根本的な発想転換が求められているのかもしれない。

(松岡瑛理記者)

 

資本主義を超える経済システムを探究

(Transforming Capitalism Lab)

U理論は、「過去や偏見にとらわれず、本当に必要な“変化”を生み出す技術」として今世界的に注目されつつあり、多くは行き詰まるマネージメントにイノベーションをもたらす手法として脚光を浴びていますが、そのU理論を提唱している、マサチューセッツ工科大学(MIT)のオットー・シャーマー博士たちが主宰する、“The presencing Institute(プレゼンシング・インスティチュート)”では、本来の人の生き方や社会、すべての人、人以外のすべての存在、将来世代も含めた、すべての幸せに繋がる新しい経済システムを足元から各地に創出しようとしています。

資本主義を超えてすべての存在の幸福のための経済を創出するためのプラットフォーム「Transforming Capitalism Lab(トランスフォーミング・キャピタリズム・ラボ)」の中で、私の書いた英語記事 「一つ家計の経済 One Household Economy in city」が紹介されました。

以下、掲載された英文の翻訳です(原文はこちら)。

 

都市における一つの家計経済

(片山 弘子)

~あなたのプロジェクトの背景にある主たるビジョンは何ですか?~

アズワンネットワークの主たるビジョンは、「一つの世界」を実現することです。そこには争いはなく、だれも取り残されることなく、誰でも、さらに人間だけでなく人間以外のすべてと、さらに将来世代を含めた存在と調和してその人らしく生きることができる世界です。アズワンの名前は、ジョン・レノンの「イマジン」の「世界はやがて一つになる」に由来しています。

人類は宇宙と名づけられた全体世界の一部分です。その世界の本質は、分けようが無いことと常に変化をしていることです。たとえば日本文化を代表する12世紀の随筆『方丈記』にも「行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」とうたわれているように。人間は、時間と空間に限定された、生命の乗り物とでもいうような、一つの現れです。

ですから、人類は本来、すべての存在と一つに繋がり、柔軟に平和に生きられる存在であることは明らかです。それにもかかわらず、「なぜ人間はすべてと調和して生きることが出来ないのでしょうか。それが人間の本当の姿でしょうか?」

アルバート・アインシュタインは以下のように述べています。

「私たち人間は、私たち自身および思考や感情を、私たち以外の世界から切り離されたものとして経験している—しかし、これは人間の認識(の限界)に由来する視覚的な妄想の一種なのだ。この妄想はある種の牢獄のようなもので、ごく個人的な欲望や、ごく周囲にいる限られた人たちに対する愛情に私たちを縛り付けてしまう。」

私たちアズワンネットワークは、そうした認識の限界からくる盲信が人類をミスリードし、他者に対して対抗的なフィクションを生み出し、それらが事実・実際であるかのように固定されていると考えています。たとえば、ポランニーが指摘した「Commodity fiction(商品化のフィクション)」—お金を得るための道具として世界を見る価値体系— お金や交換や所有等で、これは現状のパラダイムの根本問題です。それらのフィクションをベースにして、環境、社会、経済、人間性すべてに亘る計り知れない破壊と引き換えに、資本主義社会は維持されてきました。

人類には客観的な事実・実際に基づいた新しい物語が必要です。それにはまずフィクションをフィクションとして認識し、客観的な事実実際を認識する方法を学ぶことです。ほとんどの個人の世界観や思考は、それぞれの社会における価値体系によって形成されます。人間と社会と環境は、互いに関係しあって存在する一つのものです。以上のことから、現在の主流の価値体系の海に浮かぶ、Commodity Fiction(商品フィクション)のない島のような存在として、私たちは2001年から社会実験としてのコミュニティづくりに焦点を合わせてきました。

そこでは、人々はフィクションへのとらわれから解放され、心豊かに生きようとしています。それぞれの多様な持ち味や能力を育て、地球上のすべてにとっての永遠の幸福と繁栄をもたらそうとしています。理論ではなく、実際の人間を観察することによって、人間問題の根本課題が解決されて取り除かれ、人間性と社会の実際と本質が探究され続け、明らかにされていくとき、たとえその規模が小さくても、人間の可能性を証明するものとして、一つの世界がそこに出現するでしょう。

 

~誰が、何を、どこで、どのように行われているか、プロジェクトの詳細を説明してください。~

アズワンネットワーク鈴鹿コミュニティの63人のコアメンバーと、44人のサポートメンバーが本来の組織とその運営をサイエンズによって実現しようとしています。(サイエンズについては、組織的な実践の項目を参照)

しあわせを目的としたコミュニティビジネス
Suzuka Farm Co.,Ltd.,と手作りの弁当製造と配達会社(おふくろさん弁当)が鈴鹿市や近隣の市でよく知られています。

お金の交換の無い内部経済
「コミュニティスペースJOY」では、米や野菜、果物が鈴鹿ファームから、そして調理されたお惣菜が弁当屋から届きます。日用品やアルコールなどは外で購入されます。ジョイの93人のメンバーはそれらを自由に持って行くことができます。本や自動車、家具、また散髪や機械の修理などの技術もお金なしでシェアされます。70代のメンバーも含めて、すべてのメンバーがSNSを使い、情報に自由にリンクできます。もう一つの内部経済の試みは、「一つの家計経済」ですが、63人のコアメンバーとその家族が、所有なしで、暮らしを自由に発展させようとしてきました。

本のシェア
各家庭の本を、WEB上でオープンにすることで、貸し借りができ、今その本を誰が読んでいるか分かるようにしました。

 

~これまでの最大の成果は何ですか?~

2001年から鈴鹿市の中央部に社会実験の場として、コミュニティを運営してきました。その弁当会社「おふくろさん弁当」は2018年現在、一日当たり1000食を販売しています。またその運営方法が、ホラクラシーの一種として最近メディアに紹介されました。また内部経済では、「コミュニティスペースJOY」が93人のメンバーによってお金の交換なしで経営され、並行して、「一つの家計経済」が63人のコアメンバーとその家族によって、所有なしで始まっています。

 

~どんな個人的な実践が、現状のパラダイムからブレークスルーすることを可能にしましたか?~

鈴鹿ファームの一人の若者が彼の本心を表明したことから始まりました。それは、コミュニティづくりに専心しているコアメンバーたちに、一番いい野菜を食べてほしいというものでした。「人間が米や野菜を作っているのではない。私たちは現状ではそれらを売ることで利益が必要だ。しかし実際には自然の力で米や野菜が育っていく。」その若者と仲間たちが、2013年に「ジョイ」をつくりました。

 

~どんな組織的な実践が、この成果を現実のものにさせましたか?~

鈴鹿ファームは、2010年からサイエンズ研究所と「定例研究会」を始めていました。そこで先ほどの若者が自分の本当の願いを自身の中に見出し、飾らずにその思いをみんなの中に出して、他のメンバーがそこに参加をしていきました。彼らはまず目的を明らかにし、計画を立て、「コミュニティハブ」とともに定例の研究会をはじめ、そこで彼らの計画が目的にあっているか、コミュニティの中でいかに実現できるかを検討していきました。「ハブ」は場所を探したり、経営のための資金的な課題を検討しながら彼らをサポートしました。

 背 景

2004年にコミュニティが人間関係による行き詰まりに直面したとき、あるメンバーたちが人と社会の本来の状態について探究を始めました。その時、サイエンズメソッドが創出されました。サイエンズとは、ゼロからの科学的本質の探究{Scientific Investigation of Essential Nature + Zero}の略語です。サイエンズ研究所が2004年に創設され、またサイエンズを学びながらそれぞれの内面を耕すサイエンズスクールも2006年から始まりました。

以上を通して、私たちは個人の内面の変容と社会的な変容が並行して進展することを経験してきました。

 

~あなたのプロジェクトの社会的影響力が次の段階に進むことを阻んでいるものは何ですか?~

私たちは研究し、学んでいきたいと思っています。特に、私たちの社会実験が現存のパラダイムの中で強い影響力を持つために、どのように協力関係を結び、私たちを表現できるかという点に関心があります。しかしながら、私たちが現状の延長線上でどんなに努力しても限界があるのは当然です。まず私たちの現在の状態について冷静な指摘を得ることが必要です。そして世界的な協力関係を実現するために多様な仲間と出会う機会も必要です。

 

 ~運営の全く新しい次元に向かうために、どんな実現可能な条件が必要でしょうか?~

私たちの実態調査をベースにした総合的な理解と協力が、世界全体の動きや情勢を把握している幅広い観点から必要とされています。

私たちは、現在の教育がすべての幸福を実現するための新しい経済を阻害する根本的な課題であると考えています。たとえば、本来人間が作り出した商品化のフィクションにすぎないものを、あたかも現実のことであるかのように信じさせ固定化させるように機能していることです。結果として、巨大な環境破壊や社会の崩落、経済問題や人間性の崩壊などが周囲で深刻な状態で展開しているにもかかわらず、人類は孤立化し、協力して事に当たる関係性を持てない状態に陥っています。他者への強い恐れによって争いが絶えません。

日本や韓国、ブラジルでのサイエンズスクールの参加者を観察していると、私たちは同じ問題を彼らが抱えていることに気付きました。最終的に、その解決方法の一つとして、18年の経験をもとに、サイエンズメソッドを開発したのです。つまり、自分の内面を観察することを通して、人為的なフィクションを、実際にあるものとして思いこまないで、フィクションとして見ることができるような、解決策の一つとして。しかしながら、私たちアズワンネットワークの努力だけでは、地球上に真の人間性にもとづいたパラダイムの変換を実現するにはあまりに小さく弱々しいです。世界中に強い影響力を持てるような、よい仲間が必要であることは明らかです。

 

~このプロジェクトから、あなたが個人的に学んだ一番重要なことは何ですか?~

私が学んだ最も大事なことは、私は心から人間を愛しているということ、そして社会づくりは、人間の幸福には必要不可欠であるということです。私はサイエンズをここで共に学びながら、次第に心の奥底にある、他者に対する強い恐れに気がつくようになりました。内面に「やらなければならない」という考え方がたくさんあるのです。現状の社会の価値体系に覆われながら育ってきた経過の中で、私の記憶の中で、「~すべきだ」とジャッジされることへの恐れからくる結果です。それで私は、その都度その都度、自分の内面に問いかけるようになりました。何が人間(私)の作ったフィクションだろうか?何が客観的な実際だろうか。何がその本質だろうか。私はコミュニティの自由で安心できる社会気風の中で、こうした問いを続けることができ、私の本心を見つけることが出来るようになりました。2年前にGlobal Ecovillage Networkという国際的なネットワーク組織の日本の代表として選ばれたのですが、そうしたハードワークに、人間性そのものへの疑念が無い状態で専念できることが幸せです。

 

~あなたのプロジェクトのフィールドで、次の5年から10年以内に探究される必要がある、鍵になる疑問や機会は何ですか?~

私たちは心から、プレゼンシングインスティチュートのみなさんに私たちの実態を見に来ていただけたらと願っています。そしてもし関心を持っていただけるなら、なにがしかの協力が始まれば大変うれしいです。

私たちのフィールド自身は、まずすべての存在にとっての幸福を目的としたコミュニティのような理想的な環境を実現していくことです。そして、ごく普通の街の中で、次第に資本主義を真の人間性の方向に変容させていくことです。もしそうした社会実験が十分に機能すれば、他の場所に一般化できるカギを見出せるでしょう。私たちにはそのような確固とした戦略が必要です。

  • どのように私たちはこの小さな社会的な試みを一般化できるか?
  • フィクションに基づいた人間よりの現実から解放され、フィクションを事実や実際と見誤らないで、フィクションとして認識できるような多様な教育的方法を、どのように私たちは開発できるだろうか?

 

まとめ

人間らしく、誰もが安心して暮らせる—というと、それでは頑張る人が報われないのではないか、と強く問われる方もあるようです。自分が頑張った分だけ、対価が得られるということが、安心して暮らすことができる条件のように一見思えるかもしれません。 資本主義にはしかしその頑張る人を守れる根拠や保証がありません。頑張る人はもちろんのこと、どんな時でも、子供たちには社会から愛が豊かに注がれ、おいしい食事や学びの環境が守られて行く。成人してからは、自分らしく持ち味が最大に引き出されながら仕事で社会に貢献する喜びを満喫し、人生の伴侶にも恵まれて、最後の時まで自分らしく人生を全うできること。そのような人生や暮らしを、誰もが望んでも、決して奪い合いにならない社会。人間が地球に生きる「種」として、健全に存続するためには欠かすことが出来ない、当たり前のことなのではないでしょうか。

そのような社会を描くとき、それを成り立たせる経済の新しいデザインは不可欠です。

もともと、とても脆弱であったホモサピエンスが、群れとして互いに力を合わせることで、厳しい環境下を生き延びてこられたことを思い起こしてみましょう。人と人が力を合わせることが、あたかも難しいことであるかのような錯覚は、特に資本主義の体制下では引き起こされがちです。

人と人が温かい心でつながり合って生きることは、生存の絶対条件として、長い年月を経て、人間の遺伝子に刻み込まれた、生命の記憶であるかもしれません。その記憶が呼び覚まされ、健康に現代に蘇らせていく機会として、社会実験としてのコミュニティづくりにかけていきたく思います。

次の社会の、経済の原理的な提案は、サイエンズNo,6『次の社会へ 人知革命=サイエンズメソッド』の第三章に紹介してあります。ご関心のある方は、どうぞご購読ください。

(申し込み:http://as-one.main.jp/HP/order.html

 

(かたやま ひろこ:NPO法人えこびれっじネット日本 GEN-Japan 代表)

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